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□構造式1: allow+ O to-inf (V+O+C )
⇒展開式:O to-inf(O+C = S+V)

□構造式2:it is+C (for them) to-inf
⇒展開式:(for them) to-inf (for+O to-inf = S+V)
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「意味上の主語(sense subject)」は、「文法上の主語」に対して用いられる用語であり、文中で「文法上の主語」以外の主語の表現法を指します。

「意味上の主述関係」の形態は多様であるために分類化しなければなりませんが(拙著の中で論じた記憶があります)、ここでは2例(不確かですが、全部で5例だったと思います)を取り上げました。構造式1の展開式では「allowの目的語O」がそれにあたり、構造式2の展開式では「forの目的語O」がそれにあたります。

「文法上の主語」と「意味上の主語」の見分け方は、一般的に「文法上の主語」は節の文頭にあって、述語との間に「一致の法則」が適用されていますが、「意味上の主語」は、広義でいうと文中の「動詞ないしは動詞の変化形」があるところには、必ずその直前か前方に「意味上の主語」があるのです。これが英文の中心的構造であり、「nexus法則」の姿なのです。従って、「意味上の主語」もこの「nexus法則」に基づいた英文構造の一つの構造物ということです。

構造式1は、動詞の種類による基本文型でいうと「第5文型」です。なぜ英文の基本文型が動詞の種類によるかというと、動詞の「構造的機能」によって主語があるし、目的語も補語あるからで、その意味で動詞は英文構造の中心的文要素ということになります。

この「第5文型」の不完全他動詞allowの「構造的機能」によって、直前に「文法上の主語」があり、主語と動詞の間に「一致の法則」が成立し、背後に目的語Oと補語Cが配置されています。

その補語(C)に動詞の変化形の「to不定詞」が使用されていることから、この「to不定詞」は自動的に「意味上の述語」となります。そして、直前の目的語Oが「意味上の主語」になります。その場合の「意味上の述語」である補語をnexus法則から「目的格補語」と呼びます。

構造式2は、通称「(for)~to構文」と呼ばれる表現法で、前置詞forの目的語と直後の不定詞to-infとの間に「意味上の主述関係」が形成されます。その場合、「意味上の主語」であるfor-phrが省略されることもありますが、それはこの「意味上の主語」が「一般人称(us、them)」の場合に生じる現象です。

このように英語では、英文の構造論において「文法上の主述関係」と「意味上の主述関係」を明確に区別しているのですが、もちろん日本語にはそのような法則(二重構造の「主従関係」)はありません。では、日本語でその区別をどのように処理するのか?ということです。つまり、日本語への訳出に際して、「意味上の主語」である構造式1の「目的語」を目的語としてではなく「主語」として、また構造式2の「for-phr」を副詞語句としてではなく「主語」として訳出しなければならないか?ということです。

この問題は、言うまでもなく日本語の表現法の問題であり、「nexus法則」を前提とした英文構造の文頭語法や動詞語法の「構造的機能(役割、働き)」について考察し、その考察に基づく日本語の捉え方によって決定されるものと考えています。

この問題に関する私自身の捉え方は、翻訳する場合、往々にして「文法上の主述関係」を「副詞語句的に」変換し、逆に「意味上の主述関係」を「文法上の主述関係」に格上げした方法で変換するようにしているのです。理由は、その方が「文章の構造」を重視しない日本語において英文の文意をより忠実に再現できるということからです(拙著「でんしゃ理論」における「文頭システム」欄)。


構造式:S1+V1 before S2+V2
⇒ 展開式1:After S1+V1, S2+V2
⇒ 展開式2:S1+V1, and then S2+V2


第一回目の「翻訳テクニック1」のテーマは、上記の構造式で示したように従属節(before-cl)を翻訳するに当たってどのように扱うかというものです。

語順から見れば、従属節は基本的な表現法として主節の次に位置していますが、日本語に変換するに当たって、語順に従い「主節の後」に訳出すべきなのか、それとも日本語の表現法(前置用法)と英文構造の文要素(動詞)が持つ「構造的機能」に従って、「主節の前」に訳出すべきなのか、これについて解説します。

文頭の主節に対して、従属接続詞beforeが抱えるS2+V2を従属節と言います。

この主節と従属節の効力関係(力関係)は、「主従関係」で、従属節は主節の存在を前提として存在しているのです。従って、文意の中心は主節、特にその中心的文要素である「動詞」(これを「本動詞」と呼ぶ)によって決定されるのです。

では、その主節に対して従属節(before-cl)は構造的に「どのような方法」で接続されているかということです。それが、従属接続詞beforeの「構造的機能(用法・働き)」の問題です。

従属接続詞の「構造的機能(用法・働き)」の原則は、「従動詞を本動詞に接続させる」という働きです。上記の構造式でいうと、従動詞V2を抱えて本動詞V1につなぐというものですから、訳出する場合「V2⇒V1」の語順で訳出します。これを「訳し上げ」(右から左へ)と呼びます。

英語nativeは、従属節であっても構造式の語順で「訳し下げ」(左から右へ)て、読解しているのです。要するに、英語と日本語とでは、従属節の扱い方が異なっているということです。この現象を指して、英語は、従属節を主節の後方に位置させることから「後置用法(後付け方式)」と呼び、そして日本語は上記のように従属節を主節の前方に置く(「V2⇒V1」)ことから「前置用法(先付け方式)」の言語ということになります。

そこで、日本語に変換する場合、上記のように接続語の「構造的機能」に従って訳出すれば、仮に「訳し上げ」ても、原文の英語と「同一文意」になるのか?ということです。実際的に、我が国の教育や実務界においてこの方法が行われているのですが、仮に主節と従属節の接続部分の「構造的機能」に従って訳出したとしても、主節と従属節の「主従関係」が崩れ、主節で示す「筆者の主張」が少なくとも不明瞭になります。

この問題は、文意における「論理性の崩壊」に繋がります。英語は、文頭の主節で「筆者の主張」を示し、以下の語句・節、さらには後文でその「筆者の主張」を証明したり、また「論理展開」するという科学的な表現法です。その意味で、邦訳する際に「英語の語順」を無視することはできないのです。

私は、英文の後方にある「付加的構造物」の扱い方について、可能な限り(文末に本動詞を置く日本語の表現法と接続語の「構造的機能」の問題はあるが)英文の語順に従って「訳し下げる」ように指導しているのです(日本語の世界共通語化)。  *上記の展開式を参照

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